東院長の健康コラム http://www.a-azuma.com/column/ ja 2008-09-17T20:53:54+09:00 嗚呼!喫煙 http://www.a-azuma.com/column/archives/2008/09/post_2.html            
 死ぬ前に何が一番食べたいかと聞かれれば(死ぬ前には食欲も失せるだろうが)、私は何のためらいも無く鮨を名指す。医局時代、昼食のすしランチを1ヶ月に28日間食した事もある。全く飽きないのだ。赤身、中トロ、小肌、〆鯖等々本当に好きなのだ。白木のカウンターの向こうに並べてある新鮮な鮨の種を見るだけでも心がわくわくする。シャリの量を少なめに握ってもらい、ねたを味わいながらチビリチビリとやるのが私の好みの食べ方であり、正にそれは至福のときである。

 しかしながら、この至福のときは隣席の客の喫煙によって木端微塵となり、すぐさま吹っ飛んでしまう。一日一生懸命働いた後に、なんとか得る事のできた貴重な時間をぶち壊された感じになり、泣きたくなる。目から涙が溢れ(たばこの煙の刺激と口惜しさの為)「すみませーん!お勘定をお願いします。」と立席、「あら先生来たばっかりなのに」「いやちょっと急用を思い出したんで」と言いながら店を出るのである。腹の中では「せめて食事の最中にはタバコを控えろ。この大馬鹿野郎!」と叫んでいるのだ。憤懣やる方ないとはこのこと。

 朝の神田川沿いの散歩は、前方に歩行喫煙者がいるともう最悪である。新鮮な空気は汚染され、まる1日を損した気持ちになる。連れの愛犬“どん”も顔をしかめている様に見える。“どん”は毎日ほぼ決まった場所でおしっこ・うんちをする行儀正しい犬であり始末もし易いが、歩行喫煙者は吸殻をどこにでもあっちこっち放り投げ始末もしない。犬にも劣るマナーの持ち主としか言いようが無い。

最近北欧三カ国とハワイを旅した。いずれの国も公の場所での喫煙は許されていない。ホテルのレストランも街中の食堂も実に快適であった。その反作用であろうか、ハワイ以外では、若者の道路での歩行喫煙者が目立ったことは実に残念であった。以前国際癌学会に参加したとき、セッションの合間に一目散に喫煙コーナーに走って、無我夢中でスパスパやっていた喫煙ドクターは、胸にJAPANのネームカードをぶら下げた人が多かった。

愛煙家という表現があるが、あれはニコチン依存者または中毒者を最大にエクスキューズした誤表現である。紫煙を燻らすというがこれは死煙を燻らすに等しい行為であり、周囲の人々に迷惑をかけていることは明らかであるが、当の喫煙者はどこ吹く風でほとんど意識していない。依存者・中毒者はその害を認めても敢えて止めようとしない、というか止められない。依存症の恐ろしい点は、所謂「分かっちゃいるけどやめられない!」ということ。

人もうらやむ超エリートコースを歩んだ有名大学の教授が、手鏡を持って女子のスカート内を覗いたりする。パチンコに夢中になり夏の炎天下に我が子を車中に放置、死亡させる親。経済状態を考えずに借金し、高価な買い物をする主婦。パンティ泥棒、万引き、痴漢、競輪・競馬等で身を持ち崩すギャンブル狂い。携帯電話が片時も手放せない人間等、依存症の形態は様々である。‘いじめ’も私は依存症のひとつと考えている。他人の困惑、苦しみを自分の快楽として変換しているのである。他人の不幸は蜜より甘いという感覚である。依存症には所謂「クオリア」という数字で計ることの出来ない感覚(快楽)が存在し、それが自己認識の一手段であり、その感覚を追い求めている状態と私は考えている。

喫煙は青少年にとっても生理的、感覚的に最も依存症となり易い身近な存在である。授乳期に味わった口唇感覚の本能的再認識が年をとって蘇るのであろう。未成年の喫煙は法律で禁止されているにもかかわらず、罰則がゆるいためにザル法となっており、喫煙に関して日本は世界的に見ても最低の部類に入る。G8先進国で青少年の喫煙と性感染症が増加しているのは唯一日本だけである。

未成年にとって「タバコは悪のゲートウェイ」であると思っている。最初から覚せい剤、麻薬の薬物乱用に入るものはほとんどいない。先ずタバコがきっかけとなり引き金となる。あとはエスカレートの一途を辿る事になる訳だ。

以前勤めていた総合病院のある医師は驚くほどのヘビースモーカーであった。彼の外来には灰皿が机上にあり、診察中でもお構いなし。山のような吸殻を前に、若い喫煙患者に「喘息があるんだからタバコは止めなさいよ」と言うのである。何をか言わんやである。横の看護師も苦笑い。この医師は新生児室に近いナースステーションでも吸っていた事があり、断固抗議したこともある。医局会で院内禁煙について討論していた際にこの医師は、「喫煙者の権利も守るべきである」と言い放った。

 私のクリニックで、帯下増加、月経不順、下腹部痛を同時に訴える患者のほとんどは喫煙者である(現在統計をとり分析中)。私はこれを女子喫煙者の三徴(トリアス)と呼んでいる。めでたく妊娠したのに自然流産になったケースが今年も二桁を越えた。本人はもちろん夫も喫煙者の場合が多いのである。結婚したらタバコ止める、妊娠したらタバコ止めるという認識を持つ若い女性のなんと多いことか。

男性の精子は放出すれば再び億単位で生産可能であるが、女性の卵巣の卵細胞は日毎何千個も消失しており二度と創られることはない。胎生期にあった数百万の卵細胞は、20歳代では30万個ぐらいしか残らない。そのうちの1〜2個が将来の赤ん坊となるわけだが、喫煙女性は一服のタバコで3分間未来の我が子の首を絞めているのだ。貴重な卵子を既に虐待しているに等しい。ニコチンの末梢血管収縮作用がとてつもなく強大であることはご存知の通りだが、受動喫煙の恐ろしさをほとんどの人が意識していない。母親教室では、「貴方たち妊婦さんは喫煙者には近寄らないほうがよろしい」と指導している。受動喫煙でも胎盤の血流は減少するからだ。

 日本たばこ株式会社(JT)は政府が50%余の株を有している。この会社は優良企業として、次官クラスをはじめ多くの天下りが再就職し、高収入と高退職金を得ている事は有名である。本気になって法律を遵守し、未成年の禁煙を徹底的に進めるためにはこの構造を改める必要があるが、自分たちの利益を守るためには近煙対策はとっても、禁煙対策は全くやる気が無いことは明らか。特殊なカードを作って未成年の喫煙防止を試みているが、あんなもので減るはずが無い。無駄で無効果である。テレビでイメージチェンジのタバコ広告を行っているのはG8先進国では恐らく日本だけであろう。

 このまま行けば疾病や火事などによる年間7兆円のタバコによる損失は今後も続くであろう。地球エコのために一番身近で実現可能な事は禁煙の意識だと思う。歩行喫煙者、ポイ捨て喫煙者を見るたびにそう思う。この世から戦争と差別とタバコが無くなったらどんなに住みやすくなるだろうと思うのは私だけ?こんな世の中だから、タバコを吸うなとは敢えて言わない。場所をわきまえ、せめて相手に“May I smoke?”と問うことだ。医者ならその程度の常識を持っていただきたいと言う事なのです。


渋谷区医師会 平成20年8月号会報

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女性の健康 azuma 2008-09-17T20:53:54+09:00
薬物乱用について http://www.a-azuma.com/column/archives/2005/02/post.html ■ はじめに

薬物乱用とは覚せい剤や大麻など法律で禁止されている薬物や、使用方法が法律で定められているシンナーなどの有機溶剤を、不正に使用することをいうが、近年わが国における薬物の乱用は、中学生や高校生の間にまで浸透するようになった。

また、科学的に作られた薬物でMDMAなどのエクスタシーとよばれる合成麻薬の使用が10代,20代の若者にもまん延している。薬物乱用に併行して少年犯罪も増加しておりもはや傍観を許される時期ではない。

1. これまでの薬物乱用の流れ

わが国における麻薬・覚せい剤等の薬物乱用問題は終戦直後の混乱した社会から発生した。

昭和20年後半と昭和30年代に大きなまん延があり、平成9年には全国的に覚せい剤乱用が広がった。

昭和45年ごろから大麻やLSDといった薬物が広がるようになり同時に覚せい剤も急激に増加し、政府も昭和48年には、覚せい剤取締法改正が行われた。

近年、コカイン、大麻のほかにMDMAなどのエクスタシーと呼ばれる合成薬物が広がり、平成13年にはMDMA等錠剤麻薬の押収量が過去最高の10万錠を超え、前年度に比較し50%増加している。

特に若年者においては、インターネットや携帯電話でこれらの薬物が容易に入手可能になっており、今後重要課題として考慮されねばならない。

覚せい剤の密売等には、暴力団の介在があり、組織的に密輸や売買等に関わっている。

同時に外国人による密売行為も増加しており、国全体の社会問題として対策を取らなければならない。

また、麻薬のような作用がありながら、法規制対象外になっているため、公然と街中で売られているいわゆる「脱法ドラッグ」が若者のあいだで広まりつつある。

このような身近な有害商品の存在も、子供たちの興味をそそるような状況にもなっている。

2.なぜ中高生にまで薬物乱用がおこるか。

思春期は自我の確立と同時に身体的、精神的に不安定な要素を併せ持っている。

その結果のひとつとして、好奇心または他人からの誘惑で薬物に走ることになるが、当然この事は未然に防ぐ事が可能な事でもある。

薬物できれいにやせられるとか、勉強や運動に集中力がつくというような言葉につられて始めてしまうケースが後を絶たない。

日本学校保健会編のストップ・ザ・ドラッグという生徒向けの小冊子には、薬物乱用への誘いの言葉として次のように掲げている。

・みんなやってるよ
・ちょっとだけ、ためしてみようよ
・ただの栄養剤だから大丈夫
・かんたんにやせられるよ
・イライラしなくなるし、集中力がつくよ
・最高に楽しくなれるよ
・肌がきれいになるよ
・成績が上がるよ
・一回だけなら関係ないよ
・いつでもやめられるよ
・お金はいらないよ
・とりあえず、わたしておくよ
  
このような甘い言葉に誘われ、薬物について無知なために悲劇の一歩を踏み込むことになる。

 の時期はテレビ、雑誌等のメディアの影響も受けやすく、やや反社会的な行動にかっこいいと憧れの念を抱いてしまう子供たちもいる。

国際的にも薬物犯罪に対しては極めて厳しい取締りがあることを、十分に知らしめなければならない。

3. 薬物乱用防止教育

中高生による薬物乱用を防止する方法としては、学校教育が最適と考えられる。

薬物の有害性や危険性を学年に応じて分かり易く説明し、いかに薬物乱用が身体の破綻をきたすかを、啓蒙しなければならない。

薬物の習慣性、依存性、中毒性を説き、安易に体験することから廃人に至るまでの過程を体験談や臨床的症例をまじえ具体的に明示すること。

また、薬物を所持している少年や、薬物取得可能な環境にある少年たちの早期発見も重要である。

少年の生活環境の熟知に可能な限り努め、薬物乱用に巻き込まれる恐れのある少年の発見、連絡、補導は有機的、効果的且つ迅速でなければならない。

すなわち、地域・学校・行政との密接な連携が必要である。

薬物乱用に付随する重要な問題点は少年犯罪の惹起である。

依存性は理性を喪失せしめ、大麻などを買うための金欲しさに少年らを非行に走らせるのである。

行政は、今こそ有害薬品から次世代を担う少年たちから徹底的に守るべき義務がある。

相談活動、街頭補導活動、暴力団・闇組織・地下組織による薬物売買の徹底取り締まり、矯正施設の充実を図り、これ以上の犠牲者を出すべきではない。

薬物依存者の社会的復帰に向けた公的機関がまだ設置されていないことは極めて残念である。

覚せい剤、シンナー、大麻などの薬物乱用・依存による若年者の精神的、身体的破壊は、その立ち直りに膨大な時間と経費がかかる。

平成15年の厚労省の年間試算によると、薬物乱用・依存による社会的損失は取り締まりや医療費、刑務所への収容費用などを合計すると、約2,068億円に上るとしている。

■おわりに

薬物乱用を許さない社会を作るには、家庭、学校、地域、行政の連携が重要であることは言うまでもないが、脱法ドラッグ売買やインターネットのサイトによる薬物取得など身近な手段にも、厳しい目を向ける必要がある。

日本は薬物対策が遅れており、薬物依存症者の現状、年間死亡数などの基礎データが殆ど無い。

若年者に対し、現実逃避や好奇心の手段としての薬物乱用がいかに悲惨なものであるかを啓蒙し、被害者に対しては早期社会復帰のための施設を整えるべきである。

「参考文献」
1) 学校保健の動向 平成15年度版 (財)日本学校保健会編
2) 国民衛生の動向 (財)日本統計協会 2003年
3) ストップ・ザ・ドラッグ (財)日本学校保健会編 2000年

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薬物乱用 azuma 2005-02-05T02:14:06+09:00